塩野七生さんの『男たちへ』を久々に読み返していたら、こんな一節に目がとまりました。塩野さんが「おしゃれな男について」というテーマの中で「天然記念物」と評する男について述べた箇所です。
「この男たちは、自信とは、六十パーセントの自己の才能への自信と、四十パーセントの自分の才能を超えたなにか、これは運命と言い換えてもよいが、その二つが微妙に配合してできあがるのを知っていて、要は、この配合の割合をなるべく永続的に保つのが、仕事の成功につながるのを熟知しているのだ。彼らの自信は、自分にはそれができる、という意味での自信である。日本語では「器の大きい人」と言うのかもしれない。」
私も日ごろ感じているのが、自分一人だけの力では、達成感のある仕事はできないということ。紛争の勃発から解決に至るまでのプロセスの中で何か一つの力だけが強くても問題はこじれるばかりです。依頼者や裁判官、それに相手方も加えたすべての事件関係者の力と運命の力を借りながら、それぞれの力の作用のバランスをとって紛争を解決へと導いていく。これこそ、弁護士として目指すべき“おしゃれな”(器の大きい)事件解決といえるのかもしれません。
弁護士 市村陽平