昨日、他人の債務を担保するために自らの不動産に抵当権を設定した物上保証人の立場で、主債務者に対する求償権を行使するという珍しい経験をしました。物上保証人というのは、他人のために担保を提供する立場であり、自ら債務を弁済する義務は負いませんが、主債務者が債権者への弁済を怠り債務不履行が生じると、最終的に担保権を実行され担保物を失ってしまうことになります。本来、他人が支払うべき債務について自らの所有物を換価することによって肩代わりすることになるため、債権者によって担保権が実行された場合には、物上保証人が主債務者に対して求償権を取得するという法律関係になります。
このように法律上の制度としては、物上保証人の主債務者に対する求償権が認められているのですが、実務ではめったに行使されることはありません。というのも、主債務者に支払能力がない(無資力)からこそ、物上保証人が提供した担保物の担保権が行使されるのであり、主債務者に求償権を行使し得るほどのめぼしい資産があれば最初から担保権が実行されることはないからです。ただ、今回私が経験した事案では、たまたま主債務者には担保権が設定されていない不動産が残されており、債権者による担保権実行と同じタイミングでその不動産を売却することにより、充当された債務と同額を回収することができました。
求償権の範囲については、主債務者から委託を受けたか否かで法律上異なっており、そのあたりの事情が不透明であったことから、今回は事前に主債務者との間で求償に関する合意書を作成して範囲を明確にする方法をとりました。法律上の規定は知っていたものの、これまで利用することのなかった制度を経験できて感慨深いものがあります。
弁護士 市村陽平