先日、廃業した会社の事業(飲食部門)の一部を譲り受けようとしていた依頼人から、飲食店の屋号をそのまま使おうと考えているのですが問題ありませんかという相談を受けました。当事者間の事業譲渡契約書では、商号の使用を禁止する規定もなかったため、一見問題ないようにも考えられます。しかし、このような場面では、会社法22条の規定(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)に注意しなければなりません。
会社法22条1項では、事業を譲り受けた会社が譲渡した会社の「商号」を引き続き使用する場合には、譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う、と規定されています。そして、この規定は、「商号」(たとえば、株式会社●●商店)だけでなく、「屋号」(●●商店)についても類推適用されるとの裁判例があることから、相談事例のような事業の一部門だけを切り取って屋号を続用する場合でも、予想しなかった債務を負わされる可能性があるのです。
もっとも、例外的に、譲受会社が債務を負わなくてもよくなる場合が認められています。それが、免責登記と免責の通知です(会社法22条2項)。あまり見かける機会は多くありませんが、法人の登記申請の際に譲渡人の承諾書を添付すれば、商号譲渡人の債務に関する免責登記という内容を加えることができ(屋号続用の場合でも免責登記は実務上許容されています)、この登記がされていれば、譲受会社が譲渡会社の商号を続用した場合でも、債務を弁済する責任を負う必要はありません。
なお、微妙に商号を変えて使用する場合にも「続用」といえるのかという論点もあり、相談を受けた機会に少しだけ裁判例を調べてみたら、「万善株式会社」と「株式会社マンゼン」については続用に該当し、「株式会社肉の宝屋」と「協同組合肉の宝屋チェーン」は続用に該当しないと判断されるなど、結果だけをみると、???という事案が見つかり興味深かったです。
弁護士 市村陽平