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監査等委員の選任をめぐる興味深い事例


毎年6月になると上場企業を中心として総会シーズンを迎え、経済紙面には、会社による買収防衛策の導入や株主提案などについて興味深い記事が掲載されます。そんな中でも今年は、東証一部上場の天馬株式会社(証券コード7958)の監査等委員についての選任議案が注目されているようです。

同社では、機関構成として、監査等委員会設置会社制度を導入しているところ、会社法の規定では、取締役が監査等委員を選任するにあたっては、監査等委員会に議案への同意権(拒否権)及び選任議題・議案への提案権が認められています。これは、監査等委員が取締役へのモニタリング機能を果たすための独立性を担保する規定と位置付けられてきました。ところが、今回、天馬の取締役(現経営陣)は、自らが提案する監査等委員の選任案については監査等委員会の同意が得られないと見込まれる一方で、株主である投資ファンドがたまたま(?)経営陣の意に沿う監査等委員の選任案を提案したことにのっかり、投資ファンドの提案に賛成するとの立場を表明したようです。

確かに、上記会社法の規定は、会社側提案に対する同意権(拒絶権)と考えられており、会社提案に対して株主が反対の立場で議案を提出したのであれば、取締役(現経営陣)は、そのような法の規制に縛られることなく自らの意に沿う監査等委員の選任ができてしまいます。この展開について、6.21日経朝刊記事の専門家によるコメントでは、「会社法の趣旨が骨抜きになりかねない」との否定的な意見が載っていましたが、手続的には明確に違法とは考えられないため、あとは総会の場で、株主がどちらの議案に賛成するのか判断することになるのでしょう。

コーポレートガバナンス・コードが改訂され、これまで以上に株主との対話を重視していかなければいけない社会情勢の中で、今後は株主が中心となって経営を監督していくべきなのか、それとも旧来の図式に沿って監査等委員が中心となって経営を監督するのが望ましいのか、同社の総会を機に、今後学術面でも本格的な議論が展開されることと思われます。

 

弁護士 市村陽平


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