ご相談事例

メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ(3)


メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への転換が進むと、なぜ同一労働同一賃金の実現につながるのでしょうか。

2020年4月から施行されたパートタイム・有期雇用労働法や雇用関係の格差・不平等をめぐる最近の裁判の動きなどをみていても、日本全体の大きな流れとして、非正規労働者の待遇改善に取り組んでいこうとする姿勢が顕著にみてとれます。しかし、多くの正社員がメンバーシップ型雇用である一方で、非正規社員はジョブ型で雇用されているのですから、もともと働き方の土台が異なる者同士の待遇差について、何が平等で何が不平等なのかは、事前に法律でも定めることができず、いきおい困難な判断とならざるを得ません。そもそも、職務との対価があいまいな年功序列賃金では、誰の、いつの時点の賃金と比較するのかについてはっきりとした答えはありませんし、終身に近い長期雇用を前提に設計されている退職金については、そもそもメンバーシップ型雇用の中だけで成立する制度とも考えられます。これまでに、最高裁でも不合理な待遇差をめぐって、いくつか判決が示されてきましたが、細かな諸手当の支給は是正できても、賞与、退職金、さらには基本給といった抜本的な待遇格差の是正には遠く及ばないのが実情です。

このように、立法や司法が努力しても、メンバーシップ型雇用を維持する限り、同一労働同一賃金の実現はおろか、満足のいく待遇格差是正すら難しいといえるのですが、私は、日本全体の雇用システムをジョブ型雇用に転換すれば、この問題はあっという間に解決に向かうと考えています。というのも、職能等級という外部からはよくわからないメンバーシップ型特有の賃金制度を捨ててしまって、担当する職務に紐付いた賃金制度を前提とするジョブ型になれば、性別、年齢、雇用形態を問わず、横断的に労働者のもつスキルや経験に応じて賃金が決まるようになります。メンバーシップ型の正社員も、若いときには低い賃金に抑えられ、年齢を重ねるにつれて働き以上の報酬が受け取れるようになるという、社内での不自然な所得配分の仕組みがなくなり、働きに応じて正当な報酬が適時に受け取れるようになるのです。この雇用システムの転換は、企業をしばる法律を制定したり、長い時間と労力をかけて裁判で争うよりも、短期間でより効率的に同一労働同一賃金の実現をもたらすといえるでしょう。

 

弁護士 市村陽平


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