コロナの影響で売り上げが大きく落ち込んでいる外食産業を中心として、余剰人員を異業種(農業、介護、配送等)に振り向けるため、人材派遣業に参入する企業が増えているようです。
派遣労働者を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しています。労働者派遣法の主立った改正点を見ても、①労働契約申込みなし制度の創設(2012年改正)、②派遣期間制限の見直し・労働者派遣事業の許可制への一本化(2015年改正)、そして直近では、③派遣労働者の待遇改善を目的とした「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」による待遇決定(2018年改正)という動きがありました。
この③については、働き方改革に伴う非正規労働者(有期・パート)の処遇改善を進める中で、派遣労働者についても、派遣先企業で働く労働者(正規・無期フルタイム)との間の待遇差を見直すため導入された制度になります。したがって、本来、派遣事業者は、派遣先企業から比較対象労働者の賃金(昇給や賞与の有無を含む)や職務の内容、雇用形態等の情報提供を受けて、派遣労働者の待遇を決定する「派遣先均等・均衡方式」による対応が基本になるものと想定されていました。ところが、派遣先企業からしてみると、労務管理に関する情報のほとんどを派遣事業者に握られるのは避けたいでしょうし、対象労働者の待遇に変更があるたび情報を提供する義務を負わされるのは煩雑であることから、派遣業界では「労使協定方式」による運用が多く採用されています。「労使協定方式」では、派遣事業者と過半数労働代表者との間で、同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金とすることなどの協定を締結することになります。派遣労働者にとっても、勤務する派遣先ごとに給与等の条件が変わる「派遣先均等・均衡方式」よりも、一定の給与が継続してもらえることになる「労使協定方式」の方が安定していてよいのかもしれません。
冒頭のニュースでは、外食産業で働くことを意図して入社した従業員が、今後、農業や介護などまったく畑違いの業界に送り込まれることが予想されます。これまで、終身雇用や年功序列を基本とした日本型雇用を支えてきた従業員が、予定もしていなかった仕事を突如命じられた場合に、それでも在籍する会社に対するエンゲージメントが上回るのか、それとも慣れ親しんだジョブ型を求めて会社を退出するのか、果たしてどちらの結論に向かうのでしょうか。
弁護士 市村陽平