ご相談事例

副業・兼業ガイドラインの改訂について


平成30年1月に策定された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改訂版が、8月27日に厚生労働省より公表されました。当初のガイドラインでは、企業に対して、就業時間外の時間については、原則として、労働者に副業・兼業を認めるよう、モデル就業規則にも新たに規定を盛り込むなどして副業・兼業を促していましたが、労働者が副業・兼業をした場合の労働時間の管理(本業の企業と副業の企業のどちらが残業代を支払うのか等)や、労災保険の適用関係(労働災害が発生した際の業務の過重性をどのように評価するのか等)について、曖昧な部分が残されていました。

この点、労働時間の管理について、今回の改訂では、事業場を異にする場合でも労働時間は通算されることを前提として、残業代等の割増賃金の支払義務を負うのは、「労働契約を時間的に後から締結した使用者」であると明確に示されました。もっとも、通算した所定労働時間が、既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を結んでいた使用者も含めて、「延長させた各使用者」が義務を負うと説明されています。

改訂されたガイドラインが公表される前から、実務としては、概ね上記説明の対応をとっていたかと思われますが、いよいよこれが正式に改訂版ガイドラインとして効力をもつようになると、とりわけ労働契約を後から締結する企業としては、労働者の採用と労務管理により一層慎重になる必要があると思われます。というのも、後から契約を締結する企業にとっては、従業員が先に締結している企業との間の労働契約の内容を制度的に取得する手段はなく、基本的には労働者の自己申告に委ねざるを得ないからです。例えば、後から契約したB社が、採用した労働者Xから、先に契約していたA社での所定労働時間が1日3時間であると聞かされていたところ、自社でもXとの間で1日の所定労働時間を3時間とする労働契約を締結した場合、XがあるときA社で2時間の残業をして5時間働くことことになったものの、これをB社に伝えずにB社でさらに1時間の残業をしたとすると、1日の労働時間の通算が合計9時間となり、B社に割増賃金の支払義務が生じることになってしまいます。

果たして、企業としては、このようなリスクを抱えたままで、積極的に副業・兼業社員を受け入れるのでしょうか。労働時間の管理以外にも、労働者の副業・兼業には、機密漏洩や労働安全衛生のリスクも伴います。他方で、労働者ではない個人事業主やフリーランス(最近流行のギグワーカーも)などは、このような規制は適用されません。そうすると、企業にとっては、フリーランスなどに外部委託する方が労務管理に縛られない柔軟な経済活動ができるでしょうし、副業・兼業を考える労働者にとっても、いっそのことギグワーカーに転身した方が、時間に縛られない真に自由で豊かな生き方ができるといえるのかもしれません。

 

弁護士 市村陽平


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