ご相談事例

弁明の機会を与えず行った懲戒処分の効力について


今年も労働問題に関する相談がたくさんありました。年の瀬が迫った現在も労働事件を多く抱えていて、すっきりしない年越しとなりそうです。そんな中で、従業員に弁明の機会を付与することなく、会社が下した譴責処分の有効性をめぐって裁判所の判断が示された事案を紹介したいと思います(東京地裁令和3年9月7日判決)。

この事案では、従業員が職務とは関係なく、会社や代表者を批判する内容の書き込みをしたことに端を発して、会社が弁明の機会を与えることなく譴責処分にしたことの有効性が争点になりました。訴訟手続の中で、会社側は、弁明の機会を付与しなかったことは些細な手続的瑕疵にとどまると主張していましたが、裁判所は判決の中で「懲戒処分に当たっては、就業規則等に手続的な規定がなくとも格別の支障がない限り当該労働者に弁明の機会を与えるべきであり」と指摘した上で、「原告に弁明の機会を付与しなかったことは些細な手続的瑕疵にとどまるものともいい難いから、本件けん責処分は手続的相当性を欠くものというべきである」と判断しました。

背景事情として、原告の従業員は、これまでに会社と対立を繰り返すなどして短期間に複数回の注意や始末書の提出を命じられていたようです。会社としては、弁明の機会を付与したところで時間の無駄と判断して処分を急いだのかもしれません。しかし、裁判所はそのような背景事情を酌み取ってくれませんでした。どのような事情があれ、弁明の機会の付与という手続は重要であり、懲戒事由の該当性は認められたとしても、手続の履践を怠ると処分の効力が否定されてしまうという教訓を与えてくれた事例として、企業の参考になるのではないかと思い紹介させていただきました。

 

弁護士 市村陽平


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