令和6年4月26日に言い渡された最高裁判決(社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件)では、職種限定合意の認定や、これが認められた場合の配転命令の可否が争点となりました。
まず、職種限定合意の認定に関しては、これまで雇用契約書や労働条件通知書など書面での明示的な合意が必要とされる判断が大勢を占めていたのですが、今回の最高裁判決では、入社から約18年間福祉用具の製作・技術開発を担ってきたことや、技術系の資格を数多く保有していたという事実関係をもって、職務限定合意を認めた下級審判断を追認しています。
次に、職種限定合意がある場合の配転命令の可否については、「その個別的同意なしに当該同意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される」と判断されました。この部分が、労働問題を扱う弁護士界隈において、二つの意味で大きな驚きをもって受け止められた判断となります。すなわち、この事案では、当該労働者が配属されていた部門の業務廃止や事業縮小を余儀なくされ、同人の雇用維持の観点から配転命令を下したという経緯がありました。いわゆる整理解雇回避の目的で行った配転命令について「権限を有しない」と判断されたことに、多くの使用者は戸惑いを覚えたはずです。
もう一点が、近年進められているジョブ型雇用との整合性です。本件最高裁判決を受けて、一部には、ジョブ型雇用の場合、合意した職種が廃止されれば直ちに解雇ができるといった言説が飛び交っていましたが、判示内容を確認しても、職種限定合意があれば解雇回避努力が必要なくなるとは述べられていません。したがって、本判決をまとめるとするならば、職種限定合意があれば使用者側からの一方的な配転命令権限は認められないが、かといって事業の整理を余儀なくされる際の解雇回避努力も不要となるわけではない、といった使用者側にとっては不都合な判決と位置付けられるのではないでしょうか。
弁護士 市村陽平