数か月前に終結した未払残業代請求事件の裁判で、労働者側が労働時間の特定としてGoogleタイムラインを使って主張を展開してきたことがありました。もともと原告従業員は、外勤で直行直帰がほとんどだったため、弊所の依頼会社としてはタイムカードを用いた労働時間管理をしておらず、労働時間を特定するための客観的資料が乏しい事案でした。
現在の裁判実務では、もともと会社が従業員の労働時間管理をしていない事案において、訴訟活動の中でもその責任を果たそうとせず、一方的に労働者側に労働時間の主張立証責任を負わそうとする使用者側の態度を嫌う傾向にあります。今回の訴訟でも、タイムカードを提出できないどころか、数年にわたる原告労働者の働き方についても会社がほとんど把握できていないという中で、唯一の客観証拠として提出されたのがGoogleタイムラインだったのです。
受任した時点でかなり厳しい展開が予想されたものの、提出されたタイムラインの流れをよくよく調べてみると、明らかに業務とは関係のない移動や、中には家族旅行と思われるような時間も見受けられたため、つぶさにカレンダーと照らし合わせて業務関連性がないことを反論しました。その結果、裁判官の反応も徐々に変化し、最終的には労働時間の特定としてタイムライン全体の信用性がないとの心証に至ったようです。
裁判自体の結論としては、会社側が原告従業員に賠償金や解決金を一切支払うことなく和解が成立。負け筋の多い残業代請求事件の中では、依頼者満足度の高い結果となりました。
弁護士 市村陽平