有期雇用契約期間が通算して5年を超えると、労働者が無期雇用契約への変更を申し出ることができる無期転換ルールですが、大学教員の場合、特例法によって権利行使に必要な契約期間が10年とされています。この特例法では、通算契約期間が10年とされる教員について「教育研究組織の職」に就く者と規定しており、この解釈をめぐって、本日、最高裁の判断が示されました。
最高裁で争われた事案の当事者は、介護福祉士の養成課程に関する授業を担当していた教員で、期間3年の有期契約を1度更新した後(通算5年経過した後)に無期労働契約の締結を申し込みましたが、大学側は特例法の適用を主張して、無期転換を認めませんでした。これに対して、下級審では、当該教員が担当していた授業は広範囲の学問に関する知識や経験は必要とされず研究の側面は乏しいことから「教育研究組織の職」に当たるとは言えないと判断を下しました。
しかし、最高裁は、「教育研究組織の職」の意義について殊更厳格に解するのは相当でないとして、高裁判決を破棄してさらに審理を尽くさせるため差し戻す判断をする結果となりました。確かに、採用された教員の授業や研究の内容にまで踏み込んで特例法の適用があるかないかを検討しなければならないとなると大学としても有期雇用契約の締結に対して二の足を踏んでしまうでしょうし、何しろ現実的な問題として限られた人事予算の中で5年が経過した教員を無期転換しなければならないとすると人件費の捻出で経営破綻してしまうおそれもありそうです。今回の最高裁判決は、現実に即して、立法趣旨や法律の文言に素直に従った判断をしたと評価できるのではないでしょうか。
弁護士 市村陽平