近頃は、非上場企業の間でも、事業承継や株主対策の一環として自己株式取得のニーズが高まっています。特によく相談を受けるのが、相続によって経営者に好ましくない相続人に株式が承継されたというケースです。
旧商法時代には、株主間で投下資本回収機会に不平等を生じさせてはいけないという観点から、特定の株主から一方的に株式を買い取ることは認められていなかったのですが、会社法が制定されてからは、相続により株式を取得した者に対して、その取得した株式を会社に売り渡すことを請求できる制度が認められるようになりました(会社法174条以下)。
もっとも、この売渡請求をするためには、事前に定款でその旨定めておく必要があります。なお、相続が発生した後に、売渡請求ができるように定款変更をすることは許されないと考えられていますので、事前の対策が必要です。また、会社が相続人による株式の承継を知った日から1年以内に株主総会の特別決議を経て売渡請求をしなければなりません。そして、一番の問題は、株式売買価格の評価です。売渡請求をする際には、売買価格を提示して協議することになりますが、協議が整わない場合には、売渡請求から20日以内に裁判所に対して売買価格決定の申立てをする必要があります。
このように、相続人に対する株式売渡請求は、しっかりとした事前の準備と承継が起きてからの迅速な対応が求められます。また、制度を利用しようとしても、会社が自己株式を無制限に取得することはできず、厳格な財源規制(基本的には剰余金配当可能額の範囲)による縛りを受けますので、その点でも注意が必要です。
弁護士 市村陽平