ご相談事例

親子上場解消に向けての手続について


昨日、NTTによるNTTドコモの完全子会社化に向けた株式公開買い付けが公表されました。さっそく、全46頁に及ぶプレスリリースに目を通してみたのですが、その内容は、2019年6月に経済産業省により公表された「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下「指針」)を強く意識して両社ともに手続を進めてきたことが確認できる内容でした。かねてより欧米の投資家や市場関係者から公正性を疑われてきた日本企業の象徴でもある親子上場会社関係が、今後、透明性を伴う形で解消されていくのではないかと期待されます。

コーポレート・ガバナンス白書2019によれば、日本の上場企業のうち、親子上場の関係にある会社が313社(全体の8.7%)存在しますが、上記指針が策定されるまで、今回のような支配株主(NTT)による従属会社(NTTドコモ)の買収案件(上場子会社の完全子会社化)に関する直接的な取り決めがありませんでした。この点、指針では、M&A取引において尊重すべき二つの原則として、①事業価値向上と②少数株主の利益保護を掲げているところ、NTTのプレスリリースでもこの二つの原則を満たす取引であることが詳しく説明されています。特に、②少数株主の利益保護としては、究極的には株式取得対価の公正性に行き着くと考えられますが、算定に至るまでの経過として、指針が言及している特別委員会の設置や第三者評価機関による株式価値算定書の提示、フェアネス・オピニオンの取得など慎重に買付価格を決定したことが読み取れます。

今回の買付価格については、公表前の株価に対して約40%のプレミアムを付加しているため、大多数のドコモ株主は公開買い付けに応じることが予想されます。仮に、一部の株主がこれを拒否して裁判所に売買価格決定の申立等をしても、過去に最高裁がジュピターテレコム事件で示した基準によれば「独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど・・・意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ」た場合には、原則として公開買付価格をもって公正な価格とすると判断されていますので、少数株主の抵抗も厳しい戦いを強いられることになるのではないでしょうか。

余談ですが、東京の大手法律事務所はM&A案件でリーガルアドバイザーを務めることがあることから、インサイダー取引の疑いを回避するため、私的であっても株取引全般を禁止する事務所が多いようです。

 

弁護士 市村陽平

 

 


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