自社の営業秘密をライバル会社が不正に使用しているので対応して欲しいという相談を受けることがあります。もし、「営業秘密」を「不正な手段によって取得」したことが事実であれば、不正競争防止法上、保有者に対して差止請求及び損害賠償請求ができることになります。しかし、この種の事案は、一般的に立証が難しく、裁判でも会社側の言い分が全面的に認められることが珍しい類型の紛争に位置づけられます。
まず、「営業秘密」といえるためには、①秘密として管理されていること、②事業活動にとって有用であること、③公然と知られていないこと、という要件を満たすものでなければなりません。特に、①の要件に関しては、従業員なら誰でも知っているような情報では秘密はあたらず、当該情報にアクセスできる人物が制限されていることが必要になります。また、「不正取得」という点についても、多くは元従業員からの流出が疑われるのですが、実際にどのような方法、態様で情報が持ち出されたかまで完全に把握することは不可能なので、不正が推認される間接的な事実をできるだけ多く積み重ねていかなければなりません。
苦労して何とか「営業秘密」と「不正取得」の立証をクリアしたとしても、最後に立ちはだかるのが、損害の証明です。交渉や裁判では、前年比の売上げ減少分を基準として請求することがよくありますが、個人的には、裁判所は侵害行為(不正利用)と損害(売上の減少)との間の因果関係を厳格に判断する傾向がかなり強いという印象をもっています。つまり、他の要素で売上が下がったのではないということまでしっかりと補完して主張立証しないと、満足する損害の認定が得られることは難しいでしょう。
このように、ひとたび「営業秘密」がライバル会社に渡ってしまうと、損害を回復するにはかなりの困難を伴います。そうすると、情報を守る側としては、いかに「営業秘密」を流出させないか、これを持ち出そうとする者に対して抑止力を働かせるかという観点で対応を検討することになります。次回は、この観点から、退職する従業員に対して、使用者がとりうる手段について整理してみたいと思います。
弁護士 市村陽平