ご相談事例

譲渡制限株式の集約について


株式会社を設立後に、非上場株式が相続等の理由で多数の株主に分散してしまった場合、関係者が困難な事態に直面することがあります。先日解決した事案も譲渡制限株式の譲り渡しをめぐって、経営者と株主との間で話し合いに約5年の歳月を費やしました。

法律上は、譲渡制限株式であっても、代表者が株主に対して強制的に売り渡せということはできませんし、株主としても代表者に対して強制的に買い取れということもできません。すなわち、この種の紛争は法的な権利義務関係ではないため、訴訟では解決することができず、どうしても話し合いにならざるを得ないのです。

双方の立場に立って考えると、まず、会社を経営する代表者が過半数を保有していなければ、立場が不安定となるため借入れ等が必要になる際にも迅速に対応できません。これは会社が融資を受ける際、大抵は経営者も金融機関から個人保証を迫られるからです。個人保証をして運転資金を借り入れた直後に取締役を解任されたら債務だけが残ってしまいます。そのため、代表者の立場からすると、今後も会社を維持していくのあれば、少なくとも過半数以上の株式を集約して経営権を安定させたいと考えるでしょう。他方、分散した株式を保有する株主の立場では、非上場の流通性の乏しい株式を保有していても価値を生み出さず、配当も得られないのであれば、早期に手放したいと考えるはずです。

このようにして、代表者は買いたい、株主は売りたいとなれば、両者の間で株式の売買がまとまるように思うのですが、私の取り扱った事案では、金額で折り合いがつきませんでした。特に、赤字続きの債務超過に陥っている会社では、株式の時価評価が下がっていて、発行価格や取得価格から著しく乖離していることも多くあります。また、複数の株主から株式を取得しようとすると、最初に誰との間でどのような条件から提示するのか戦略的にも難しい判断を迫られます。

幸いにして、私の依頼者は、最終的に過半数超の株式を取得でき、ひとまず立場は安泰となりました。会社設立の時点では、通常、後々の紛争まで想定することは稀だと思いますが、株式については当初からできるだけ代表者が3分の2以上を確保するか、種類株を発行するなどして事後に対応できるような態勢を整えておくことが望ましいでしょう。

 

弁護士 市村陽平


お気軽にご相談ください。
TEL 0564-26-6222
平日 9:00~18:00(土日祝休) ※事前のご予約で時間外も承ります。