個人の氏名・性別・生年月日・郵便番号・住所といった個人情報(以下「本件個人情報」)が流出したものの、財産的被害は発生していないという場合に損害賠償は認められるのでしょうか。この点につき、ベネッセコーポレーション事件で会社側は、単に抽象的な不安感にとどまるだけであるから損害賠償請求の対象となり得る損害には該当しないと主張していました。
これに対し、最高裁判決後の差し戻し審(大阪高裁令和元年11月20日判決)では、「本件個人情報を利用する他人の範囲を控訴人(※情報流出被害者)が自らコントロールできない事態が生じていること自体が具体的な損害であり、控訴人において予め本件個人情報が名簿業者に転々流通することを許容もしていないのであるから、上記のような現状にあること自体をもって損害と認められるべきである」と判断しました。また、他の高裁判決でも「これらの情報が不正に漏えいした場合には、自己の了知しないところで自己の個人情報が漏えいしたことへの私生活上の不安、不安感及び失望感を生じさせたものとして、精神的損害が生じたと認めるのが相当である」と判示して、いずれの判決でも損害賠償の対象となることを認めています。
これらの判決によって、本件個人情報のような社会生活を営む上では必要に応じて第三者に開示されることが想定される情報であっても、自らコントロールできない流出の態様であったり、自己が欲しない他者への開示といえる場合には、精神的損害を構成するという判断が示されたといえます。では、そうした場合に賠償されるべき損害額はどの程度なのかを次にみていきたいと思います。
弁護士 市村陽平