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転勤を拒んだ社員に対して差額賃金の返還請求が認められて事例


判例速報を読んでいたら興味深い裁判例を見つけました。事案の概要としては、総合職の職群として正規雇用され月額332,500円の基本給を受け取っていた従業員が会社からの転勤命令を拒絶したため、会社が従業員の職群を地域限定総合職に変更した上で、同職群の基本給である312,500円との差額の半年分にあたる12万円の返金を求めて提訴したというもの。前提事実として、この会社では、総合職の正社員が転勤を拒んだ場合には半年遡って地域限定職との差額賃金を返還しなければならない旨の給与規程が置かれていたようです。

一般的に、会社が従業員に対して支払った賃金の返還が認められるケースは珍しく、仮に返還請求する旨の就業規則等の定めがあったとしても厳しく審査される傾向にありますが、判決ではこのような規程について、賃金全額払いの原則(労基法24条1項)に違反せず、内容の合理性(労契法7条)も認められると判断されました。

近年、正社員と非正社員との中間的な存在として、待遇は正社員であるものの配転や出向がない限定正社員という位置付けの職群を導入する企業も増えてきています。通常、正社員は転勤等のジョブローテーションを受容する代わりに非正社員と比べて高い給与水準が構築されていることから、正当な理由なく転勤命令を拒絶すれば降格処分により拒絶後の給与水準が下がるのは当然といえます。この点で、本判決の特徴としては、将来にわたっての減給だけでなく過去半年に遡って総合職と地域限定職との差額賃金の返還請求を認めた点にあると考えられます。

ただ、判決文の「その金額も月額2万円(半年分で12万円)にとどまること」とか「労働者に過度の負担を強い、その経済生活を脅かす内容とまではいえず」というようなニュアンスからすると、理屈だけを抽出して敷衍化するには注意が必要かもしれません。

 

弁護士 市村陽平

 


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