ご相談事例

待遇格差解消のための正社員の手当削減について


少し前の裁判になりますが、山口市にある病院に勤務する正規職員が、非正規雇用の職員への手当を創設するために一部の手当を削減されたことが違法だと主張して、病院側に引き下げ相当額の手当を支払うよう請求した裁判の判決がありました。判決の中で、裁判所は「制度が根本的に変わる以上、支給条件の大幅な変更もやむをえず、新しい制度設計を選択する合理性と相当性が認められる」と述べて正職員側の訴えを棄却する結果となっています(山口地方裁判所令和5年5月24日判決)。

また、上記判決と同じ頃、日本郵政グループ労働組合が、使用者側が提示していた正規と非正規の待遇格差解消措置として、正社員の夏期・冬期の有給休暇の削減を受け入れる方針を固めたとの報道がありました。使用者側の提案は、令和2年10月に最高裁判所が不合理な格差にあたると判断したことを受けての対応で、それまで正社員には年3日付与されていた有給休暇を年2日に減らして、削減した1日を非正規社員(期間雇用社員)に付与するというものです。

このように業種や企業規模にかかわらず、どの業界でも厳密に労働契約法20条の趣旨を貫徹しようとすれば、非正規雇社員の待遇を底上げするだけでは足りず、平均より多くの便益を享受してきた立場の社員の賃金や休暇を削って、その分を低い待遇の社員に分け与えなければ目的は実現されません。先に紹介した2つの事例は、まだまだほんの序章にすぎず、今後、同一社内での立場の違いによるパイの奪い合いをめぐって本格的な紛争が次々に起きてくることが予想されます。

 

弁護士 市村陽平


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