相続が発生した際、遺産分割協議や相続放棄がされることはよくありますが、限定承認の手続がとられることはあまり多くありません。私も限定承認に携わったのは、過去に申立代理人として申請した事案が1件と、限定承認者から依頼を受けて相続財産管理人の代理人となった事案が1件あるのみです。
そして、現在、交渉にあたっているのが、被相続人の債権者の立場で限定承認手続に関与している事案。この事案では、唯一の相続人が裁判所に限定承認を申請し、そのまま相続財産管理人となったのですが、財産目録が開示されて以降、手続が遅々として進みません。相続人不在や生死不明の不在者の場合の管理人であれば裁判所への報告義務もあり監督されるのに対し、限定承認の場合の相続財産管理人は裁判所が選任してもそれ以上の手続的関与は一切ないのです。そうなると、債権者の立場としては、基本的に手続の進捗状況について指をくわえて見守ることしかできません。
公告期間満了後には債権者に対して弁済拒絶ができないとされているにもかかわらず、実効性を担保する手段がないとすれば、限定承認者=相続財産管理人による制度の悪用を招きかねず、債権者の立場が不安定となってしまいます。限定承認の手続については、制度上の不備がたくさんあるため、今後、裁判所による監督機能をもたせるか、債権者にも相続財産の換価に関与させるなど新たな仕組みを構築する必要があると強く感じた次第です。
弁護士 市村陽平