ご相談事例

シフト決定権限の濫用について


コンビニやファミレスなどでアルバイトを募集する際、勤務日数については「シフトにより決定」と契約書に記載することがあります。このような合意で労働契約を締結して、アルバイト従業員が平均週3日・1日8時間働いたときに、使用者としてはアルバイトとの間で週24時間の労働時間を合意したことになるのか、また何らかの事情で当該アルバイト従業員のシフトを減らさざるを得なくなったときに違法と評価されてしまうのか。有限会社シルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日判決)では、上記争点に対する判断が示されています。

まず、前者の勤務時間の合意については、雇用契約書に「シフトによる」との記載があること、過去2年間の勤務実態としても固定された日数のシフトが組まれていたわけではないこと、当該会社の事業内容からすると他の職員との兼ね合いからこのアルバイト従業員の1か月の勤務日数を固定することは困難であること等の事情に着目し、週3日・1日8時間という勤務時間の合意を認めることはできないと判断されました。他方で、シフトの削減については、総論として「シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得る」と判示した上で、本件での一部期間のシフト削減は合理的な理由がなく、シフトの決定権限を濫用したものとして違法であると認定されています。

労働法の分野では、判例を通じて「解雇権濫用」とか「配転命令権濫用」の法理が形成されてきましたが、この裁判例を見ると「シフト決定権濫用」という新たな法理の誕生ともいえそうです。裁判所が設定した違法性の基準は「合理的理由」があるか否か。判決の具体的事情を参考にすると、本人が「この勤務地では働けない、この仕事内容では出勤しない」と意思表示したことに起因してシフトを減らしたような場合には合理的理由ありと評価されるのではないでしょうか。また、昨今のコロナによる時間短縮営業に伴ってシフトを減らすことになった場合もシフト決定権濫用とは判断されないでしょう。

 

弁護士 市村陽平


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