弁護士が、裁判や示談等で最終的に紛争を解決する際、合意書面の中に「本件合意内容については、第三者に口外しない」という口外禁止条項を盛り込むことがあります。この口外禁止条項について、近時、労働審判の中で命じられたことにより精神的苦痛を被ったとして国に損害賠償を求めた訴訟の中で、裁判所が、相当性を欠くとして違法性を認める判断が示されたようです。
我々の感覚からすると、口外禁止は盛り込むことが一般的であり、しかも裁判所が主催する労働審判の中で合意された内容が違法と判断されたことは大変な驚きです。そもそも、口外禁止条項は、紛争を早期に円満解決するために意味のある条項と考えられてきました。というのも、損害賠償請求事件などで金銭を支払う側からすると、起こされた事件は解決したいけれど、金銭を受け取った側が職場の同僚や他の利用者などに都合よく結論だけ伝えてしまうと、紛争が飛び火して同様の事件をいくつも抱えてしまうことからリスク回避のために盛り込んでおく必要があり、他方で、金銭を受け取る側からしても、口外しないことを約束することにより、支払う側の懸念が払拭されれば早期に和解ができるので双方にとってメリットは大きいと言えるのです。
今回、裁判所で示された判断については、直に判決文を確認していないので詳細なコメントはできませんが、今後の実務では、永続的に口外禁止を義務付けるかのような表現や、禁止範囲を限定しない表現には気をつけた方がよいかもしれません。そういう意味で、これまでも「正当な理由のない限り」などという限定を加えることはありましたが、この先、もう少し慎重に「本合意後○年間は」とか「家族以外の第三者に対しては」などの具体的な限定を加えることも重要になってくるのではないかと思います。
弁護士 市村陽平