法的紛争の解決方法は、基本的に金銭での請求という形になります。交通事故にしてもハラスメントにしても、元あった状態に戻して欲しい、加害者を退職させて欲しいという気持ちになるのですが、法的な手段で権利を実現しようとするとどうしても事後に金銭請求という手段をとらざるを得ません。ただし、例外的に「差止め」という態様を求めることが可能な紛争形態もあります。
現在、この差止め請求する紛争を3件ほど取り扱っています。ひとつは、人格権に基づく差止め。これは、出版物の差止めを求める際によく用いられる法的構成で、裁判例も積み重なっているため、比較的見通しがつきやすい類型です。ふたつめが、不正競争防止法3条に基づく差止め請求。これも営業上の利益が侵害されたかどうかで判断されるため、法的な枠組みとしては主張立証がわかりやすいといえます。最後に悩ましいのが、両方の類型に当てはまらない差止請求(法的な名称が思いつきません)。
この3つめの請求をするため、どのような場合に差止請求権が発生するのか文献を調べてみたのですが、はっきりとした記載はなかなか見つかりません。どうやら物権的請求権を根拠にして差止請求ができるのではないかということが書かれている論文もありましたが、裁判ではっきりと認められた例はなさそうです。人格権とも営業秘密とも関係のない権利関係について、どのようにして裁判所に差止めの判決を出してもらえるか、しばらく思案が続きそうです。
弁護士 市村陽平