ご相談事例

企業の買収防衛策について


ここ数か月世間を騒がせていた東京機械製作所VSアジア開発キャピタルの買収防衛策をめぐる司法判断が確定しました。この事件は、東京機械製作所が、自社の株式の30%超をアジア開発キャピタル(買収者)側に取得されていることに気づいた後、買収防衛策として同社(買収者)以外の株主に新株予約権を割り当てようとしたため、買収者がその差止めを裁判所に請求した事案です。

判断の前提となる法的ルールのポイントとしては、①新株予約権の割り当ては取締役会決議で決められる、②株主は新株予約権の発行が「著しく不公正な方法」によるものであり、それにより株主が不利益を受けるおそれがある場合には差止めを請求することができる、③「著しく不公正な方法」かどうかは、新株予約権の発行が現経営陣の経営支配権の維持・確保を主たる目的として行われているかどうか(主要目的ルール)で判断される、④新株予約権の発行が現経営陣の支配権維持の目的で発行されたものであっても、濫用的買収に対峙する場合には例外的として「著しく不公正な方法」と判断されない、といったところでしょうか。

今回の東京機械製作所による新株予約権の発行は、買収を機に取締役会で決議されたものであり、資金調達の必要もなかったことから目的が経営支配権の維持にあることは明らかです。となると、主要目的ルールの例外にあたる濫用的買収といえるかどうかが判断のポイントになるような気がしていたのですが、裁判所の判断としては、臨時株主総会決議で一般株主によって買収防衛策の導入が可決された点を重視しているように思えます。ただ、この臨時株主総会決議というのが買収者の議決権は排除して行われたいわく付きの決議であり、買収者は裁判の中で、株主平等原則に違反する決議であると主張していましたが、この主張も認められませんでした。また、裁判所は、買収者が公開買い付けの方法によらず、市場内取引で株式を取得した点について「一般株主に対して売却への圧力(強圧性)がある行為」と述べ、直接、濫用的買収か否かに触れることなく、近年買収事案で見かけることの多い「強圧性」理論を採用している点も注目されます。

私が学生時代に会社法を勉強していたときは、株主平等原則は絶対的権利であると教わった覚えですが、今回のような一部の株主を排除して賛否を決める「マジョリティーオブマイノリティー」(MoM)が本当にこの原則に違反しないのかはかなり疑問です。しかも、平時からMoM条件の設定を決めていたならばともかく、買収者が現れた後の有事に導入することは株主に対する情報開示という観点からも問題があるのではないかという気がします。

いずれにしても、今回の司法判断の確定は、上記①~④のルールとは別の新たな枠組みを構築したものと評価されますので、今後の買収事案(直近ではSBI銀行VS新生銀行)の対応にも大きな影響を与えることは間違いないでしょう。

 

弁護士 市村陽平


お気軽にご相談ください。
TEL 0564-26-6222
平日 9:00~18:00(土日祝休) ※事前のご予約で時間外も承ります。