ご相談事例

民法上の「錯誤」について


まだ法律の勉強を始めて間もない頃、民法総則の講義で錯誤について習いました。民法上、錯誤が認められて法律行為が無効(現在は取り消し)と認められるのは、原則として、表示上の錯誤と内容の錯誤に限られる。表示上の錯誤とは、例えば100円と記入するつもりで100万円と書いてしまったという例、内容の錯誤とは、スイスフランとフランスフランが等価だと思って意思表示をしてしまう例を説明されたと記憶しています。そのとき、表示上の錯誤は何となくイメージできましたが、内容の錯誤についてはそんなこと実際に起こり得るのか、他に適切な例を説明できないのかという印象を抱いたものです。

あれから20数年の時が経った本日の新聞記事で興味深いニュースが目に飛び込んできました。「¥=円と思ったら人民元 通販サイトで請求額20倍 国民生活センター、注意喚起」(R5.4.20日経夕刊)。この記事によると、とある通販サイトで日本円ではなく人民元で決済され、約20倍の価格になるという相談が国民生活センターに多く寄せられているそうです。その原因としては、運営主が日本円と人民元のいずれも通貨記号「¥」を使っていたのだとか。

これこそまさに内容の錯誤の典型事例といえるのではないでしょうか。学生の頃、スイスフランとフランスフランの説明にしっくりこなかった私としては、このような事例で内容の錯誤を説明してもらえればよく理解できたのではないかという気がします。当時、錯誤は当然無効とされていましたが、債権法改正を経て、現在は当事者が取り消しを主張することにより法律効果が遡って消滅するという規定に姿を変えました。時代の移ろいを実感するとともに、何も分からず手探りで法律の勉強をしていた学生時代が懐かしく思い出されます。

 

弁護士 市村陽平


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