ご相談事例

公正証書による債務弁済契約について


少し前に、公証役場で作成した債務弁済契約という公正証書の効力が争われた裁判がありました。こちらは、公証役場で公証人が当事者双方から内容を聴き取って作成した契約なのだから、当然に合意内容に従った効力が生じる旨主張したのですが、裁判所の判断は、この公正証書による債務弁済契約は「和解契約とは認められず、その他、この合意をそれ自体によって債務の発生原因と認める事実関係は認められない」として、効力自体を否定するまさかの判決を受ける結果に。

理論的に掘り下げると、契約の有因論・無因論という小難しい議論に行き着くわけですが、結論として裁判所は、債務弁済契約は前提となる何らかの契約関係があって、それとは切り離して独自に成立する契約ではないと判断したようです。確かに、この論点は、数年前の債権法改正の会議でも学者先生の間で議論されていたようであり、いまだ多数説としては契約の無因性を認めないという結論に落ち着いていたような気がします。

そうはいっても、これまでに認知レベルが衰えた高齢者の遺言作成というごく限られた事案でしか公正証書の効力が問題とされた経験がなく、意思能力や判断能力にまったく問題がない当事者同士による公証役場での契約の効力が否定されたのは驚きでした。私は裁判が提起された以降にはじめて関与したため、公証役場でどのような話し合いがされたのかは不明ですが、公正証書を作成したからといって法的効力にお墨付きが与えられるわけではないという教訓を得た裁判となりました。

 

弁護士 市村陽平


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