某就職(転職)口コミサイトに会社の悪口が書かれている、嘘の情報が掲載されている、などという相談が多く寄せられています。特に昨今の人手不足に拍車をかけるような口コミサイトの対策に企業は頭を抱えているようで、何とかなりませんかという相談が増えている印象です。
そもそも法人は名誉感情をもたない主体と理解されていますが、判例上は法人も社会的評価を受ける対象である以上、その外部的評価が低下すれば名誉毀損が成立すると判断しています。ただ、名誉毀損が成立して損害賠償や削除請求が認められるためには、事実の摘示によって社会的評価が低下したことという要件を満たさなければなりません。口コミサイトへの書き込みで判断が難しいのが、事実の摘示なのか、意見・感想・論評にすぎないのかという点です。典型例として、単に「ブラック企業」「悪徳商法」などといった抽象的記載は個人の感想の域を超えない表現と評価されるでしょう。これに対して、現場での事故や顧客からのクレームなどを掲載して転職すべきではないといった書き込みがされている場合には、相当と認められる限度を超えた内容として名誉毀損を構成するものと考えられます。
もっとも、だからといって必ず損害賠償や削除が実現できるとは限りません。裁判となった場合には、真実性・相当性の要件で争われることも少なくないからです。仮に、ある表現行為が社会的評価を低下させても、公共性があり、専ら公益を図る目的で、摘示された事実が真実であると証明され、又はその事実を真実と信じたことについて相当の理由があるときには違法性がないと判断されます。この他にもインターネット特有の争点も多々あり、この種の事案はなかなか判決での見通しが難しい分野の事件といえます。
私もできるだけ正確な見通しができるように、時間のあるときには最新の裁判例の事案を分析するなどして、分水嶺についての感覚を磨いているところです。研究する分野としては、よく慣れ親しんだパワハラやセクハラの分析に近いかしれません。
弁護士 市村陽平