ご相談事例

自動運転中の事故の責任について


最近、多くの車で搭載されるようになってきた自動運転システムですが、自動運転走行中に生じた交通事故について、運転者は責任を免れることができるのでしょうか。

ひと言で自動運転といっても、業界団体の基準では、その機能に応じて5段階の区分が設けられており、人とシステムのどちらが運転タスクの実施主体なのかという観点で区分けすると、レベル1と2までがドライバー(人)による監視、レベル3以上になってはじめてシステムによる監視を前提とした運転タスクという位置づけになっています。レベル1や2としては、自動ブレーキや車線からはみ出さない走行、高速道路での自動運転モードなどが該当し、レベル3になると、走行中にスマートフォンを利用したり、テレビをみながらの走行、レベル5では完全自動運転となるようですが、現在の日本では、2020年4月に施行された改正道路交通法によって、レベル3での公道走行までが認められるようになっています。

現状、自動運転走行中の事故という事例はまだ多くはなく、裁判例の集積もありませんので、断定的なことは申し上げにくいのですが、上記区分からすると、おそらくレベル2までの運転機能を使っての事故であれば、ドライバーの監視を前提としていますので、運転者の過失を否定することは困難といえるでしょう。他方、レベル3以上の状態での自動運転による事故となると、基本的にシステムが運転タスクを担っていることになりますので、場合によっては、運転者の責任が否定され、自動車メーカーの責任が追及されることも十分にあり得ると思われます。

交通事故は、生活の利便性向上と引き換えに一定数の犠牲者が確実に発生する上に、人の最も重要な生命身体にも危害が及んでしまうこともあって、最終的に誰も責任を取らなくてよいという結論は成り立ちにくい領域といえます。したがって、今後、自動運転が高度化、標準化したときの責任の所在の判断基準や立証の配分については、これまでのように運転者の過失を前提とする定型化した訴訟とは異なり、高度な専門知識を必要とする複雑困難な紛争類型に発展していくのかもしれません。

 

弁護士 市村陽平

 


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