ご相談事例

修行僧の労働者性について


少し前、世間ではコンビニ店長や宅配サービスの配達員が労働基準法上(あるいは労働組合法上)の「労働者」に該当するか議論になっていましたが、私が取り扱った案件として、宗教団体で修行中の僧侶が労働者といえるのか問題になったことがありました。そのとき参考にしたのが、「宗教団体についての労働基準法の適用」という通達(昭和27年2月5日基発49号)です。

この通達の第2項イでは「宗教上の儀式、布教等に従事する者・・・僧職者等で修行中の者、信者等であって何等の給付を受けず奉仕する者等は労働基準法上の労働者ではないこと」、2項ハでは「宗教上の奉仕ないし修行であるという信念に基づいて一般の労働者と同様の勤務に服し賃金を受けている者については、具体的な勤務条件、特に、報酬の額、支給方法等を一般の企業のそれと比較し、個々の事例について実情に即して判断すること」と規定されています。通常、まったく金銭が支払われないということは稀で、私が相談を受けた案件でも、月に一度わずかばかりの謝礼が支払われていましたので、それが「賃金」にあたるといえるのかが判断の分かれ目と考えられました。通達と併せて過去の事例も調べてみると、一定額の俸給が支払われている場合、それが「単に最低限の生活維持を目的とするもの」か「労務提供の対価として支払われたもの」かという視点を判断基準にしている裁判例が見つかりましたので、その基準も踏まえて私なりの見解を説明させていただきました。

一般的に、宗教法人や宗教団体をめぐる紛争では、信仰の自由や宗教法人法に定める宗教尊重の精神が考慮されるため、司法(裁判所)の積極的な介入による解決にはなじみません。他方で、紛争の法的性質が雇用関係の領域に入ってくると、裁判所も労働者保護の観点から、一般の企業と同じように未払賃金請求や解雇権濫用の判断をしますので、くれぐれも宗教団体の内部紛争は聖域だと過信しないようにする必要があります。

 

弁護士 市村陽平

 


お気軽にご相談ください。
TEL 0564-26-6222
平日 9:00~18:00(土日祝休) ※事前のご予約で時間外も承ります。