ご相談事例

不合理性の判断ポイント-手当・賞与・退職金・基本給をめぐって-


ご承知のとおり、昨年10月に正規労働者と非正規労働者の待遇格差をめぐって、5つの最高裁判決(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件)の判断が示されました。平成30年に言い渡された長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件と併せると、正規と非正規の待遇差をめぐる合理性判断の基準や視点が明確になってきたのではないかという印象を受けます。

大雑把に整理すると、①業務や役割に応じて支払われる各種手当(業務手当、皆勤手当、役職手当等)については、正規と非正規で同じ業務を担っているのであれば、同様の基準で支給しない限り不合理と認定される傾向にある、②手当の中でも家族手当や住宅手当などの扶養的性質の手当については、会社側が長期雇用や転勤を前提として支給しているのであれば、不合理と評価されない余地はある、③賞与・退職金・基本給のような賃金制度の根幹に関わる差異は、正規と非正規との間の業務内容や責任の程度、配置変更の範囲にほとんど違いがないと評価されない限り不合理とは判断されない。ただし、これらの違いをある程度具体的に説明できるだけの実態は必要となる(抽象的に「将来の期待可能性が異なる」等ではダメ)、④一部の下級審が採用した割合的認定手法(たとえば、正社員の6割を下回る内容は不合理)は是認しない、といったところでしょうか。

この他にも、裁判所は「その他の事情」として、労働組合との交渉の経過、正規社員への登用制度の存在、実際に非正規社員と同じ業務を担っている正社員の存在等の事情も考慮していますので、これらの要素を踏まえて、今後、賃金体系の見直しをする必要性があると思います。一連の最高裁判決の根拠となった労契法20条が制定された当初、待遇差をめぐる問題がこのような形で労働法判例の主役に躍り出るなど想像していませんでした。私個人としては、本来、賃金制度をどうすべきかは労使が話し合って決めるべき性質の問題で、裁判による解決は相応しくないと考えていますので、関与する会社に対しては、紛争が生じる前に合理的な説明のつかない手当の違いなどは廃止して、基本給に組み込むよう助言するなどしています。

 

弁護士 市村陽平


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