定年後再雇用者の基本給・賞与等について不合理性と判断された裁判の判決内容が手元に届きました(名古屋地裁令和2年10月28日判決・労働経済判例速報72巻4号)。この判決では、定年後再雇用された原告らの基本給が、正職員定年退職時の基本給の60%を下回る限度で不合理(労契法20条違反)と判断されています。
この判決で一番驚いたのが、理由付けとして「労働者の生活保障の観点からも看過し難い水準」ということに言及している点です。判決でも触れられているように、定年後再雇用者は、定年に達した時点で退職金を受け取っており、老齢厚生年金の支給も受けられる立場にあります。判決では、再雇用時の基本給だけに着目して、これらの受領金額まで具体的に考慮した形跡は見当たりません。そもそも、判決に対する根本的な疑問として、高年者の定年後の生活保障まで企業が担わなければならないのでしょうか。被告となった会社としても、原告が入社した時点では、60歳で定年退職することを想定していたはずです。それが、高年法の改正という国の施策によって有無を言わせず65歳までの雇用義務が生じた結果、当初の想定とは異なり再雇用することになったと考えられます。これは、企業の責任というより、年金政策の失敗という国の過ちを企業が押しつけられているにすぎません。
正規・非正規の待遇差をめぐる紛争の中でも、高年者の再雇用に伴う問題は、高年法の改正という、謂わば企業にとっての一方的な不利益変更の事実を考慮に入れなければ公平な判断はできないと思います。他方で、このような判決の流れが続くようだと、給与原資の総額は決まっているのですから、使用者としては定年後再雇用後も見据えた全従業員を対象とする賃金制度の大幅な見直しにも着手しなければなりません。そうなると、方向性としては、年功序列や職能給を廃止して、職務給や成果給を中心とするジョブ型雇用を採り入れていくしかないのだろうと思います。
弁護士 市村陽平