ご相談事例

事業譲渡と労働契約の承継について


先日、地元で設備業を営む会社の経営者から、親しくしている同業者に事業承継を頼まれて引き継ぎを検討しているけど、その会社の従業員も全員引き受けなければいけませんかという趣旨の相談を受けました。

近年、株式移転や株式譲渡を中心としたM&A市場が活況を呈していますが、基本的にこれらの手法では株主構成が変動するだけで、従業員の雇用主体となる会社はそのまま存続することになるため、そもそも従業員の承継の問題は生じません(つまり、買収側が従業員を排除する選択肢は解雇以外にありません)。また、会社分割という枠組みにより、事業を承継する方法もありますが、この方法を用いると、労働契約承継法という特別法により、承継される事業に主として従事する労働者の労働契約は当然承継されることが原則となります。

最後に考えられるのが、事業譲渡による事業の承継です。この事業譲渡については、個々の財産に関する権利義務を契約行為によって承継させる制度になりますので、譲渡会社と譲受会社の合意によって、一部の財産(人的財産である労働者も含みます)の承継を除外することができます。承継されない従業員の不利益については、古くから救済の必要性が説かれてきましたが、いまだ労働契約承継法のような立法化はされていません。したがって、冒頭の相談に対しては、同業他社を包括的に承継するのではなく、対象とする財産をひとつひとつリストアップして事業譲渡契約を締結してはどうですかと回答しました。

もっとも、過去の裁判例では、不当な動機・理由で一部の従業員を排除するために事業譲渡を選択した場合には、そのような契約を公序良俗違反として無効とした判決もありますので、その点には注意が必要と思われます。その意味で、法律や制度に絶対はなく、最終的には、物事のバランスや落ち着きといった常識的感覚を働かせて判断する必要があるのです。

 

弁護士 市村陽平


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