ご相談事例

賃金制度の設計と時間外手当について


企業がどのような賃金制度を設計するかは、労働基準法や同施行規則等に違反しない限り本来的に自由になしえます。ところが、固定給制度と出来高払制度を組み合わせた賃金設計を構築し、固定給部分の時間外手当が一定額を超えた場合に出来高制にあたる歩合給や能率給を減らしていくという賃金制度をとっている企業(特に運送業界に多く見られる制度です)に対して、労基法違反を理由とする未払残業代請求が提起されています。

最初に耳目を集めたのが国際自動車事件。この事件は、最高裁で2度も原判決が破棄差戻しされるという異例の経過をたどりましたが、第1次事件で判示された「労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され、使用者が、労働契約に基づき、労働基準法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこと自体が直ちに同条に反するものではない」という規範は、残業代請求の判断にあたって、最も基本となるべき重要な規範であると位置づけられます。

次に今年3月に大阪高裁で判決が出され、現在も最高裁で係争中のトールエクスプレスジャパン事件。この事件で、労働者側は、固定給部分と出来高給部分を一緒くたにして、固定給部分である残業代が増えるとそれに連動して出来高給である能率手当が減少する設計は、労基法が定める適法な割増賃金の支払いとはいえないと主張しました。しかし、大阪高裁の判決では、「出来高払制の賃金を定めるに当たり、売上高等の一定割合に相当する金額から労働基準法37条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする定めが当然に同条の趣旨に反するものと解することができないのは、前掲最高裁平成29年2月28日第三小法廷判決(※国際自動車第1次最判)の判示するとおりであり」として上記位置付けをしっかりと踏まえた上で、「時間外労働等が増加しても賃金総額が変わらないという現象自体は、いわゆる固定残業代が有効と認められる場合にも同様に生ずることであるから、それだけで本件賃金制度における能率手当が同条の趣旨を逸脱するものであると評価することはできない」と判断しました。

歩合給と割増賃金との関係をめぐっては、第2次国際自動車事件の最高裁判決によって混乱が生じてしまいましたが、このトールエクスプレスジャパン大阪高裁判決が、本来の正しい理解へと回帰する第一歩となることを期待しています。

 

弁護士 市村陽平

 


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