会社が従業員に対して30日以上の期間を設けて解雇予告をした後、従業員側から解雇予定日までの残りの期間をすべて年次有給休暇の消化に充てると主張されることがあります。当該従業員の有給が残っているのであれば、会社としては、法律上この請求を認めざるを得ません。ところが、一日たりとも出社せず、電話やメール等での後任への引継ぎ作業にも一切協力しないとなると、現場は混乱してしまいます。会社としてはこの種のトラブルがよく発生するようで、退職する従業員を何とかして出社させられないかという相談をこれまでに5回ほど受けたことがあります。
基本的に、解雇予告期間以上の有給残日数があるようだと、会社としては時季変更権を行使することもできないため、残る可能性としては、休日労働命令が考えられます。しかし、休日労働命令についても、36協定が必要であったり、労働契約や就業規則で規定していることが要件とされることから、どの会社も思い立ってすぐに実行に移すことは困難と思われます。また、仮に、休日労働を命じる要件を満たしていても、いざ従業員に命じると権利濫用であると反論される危険性もあります。そうなると、法律論ではありませんが、引き継ぎをしてもらうよう粘り強く説得するという方法が一番実効的といえるかもしれません。
なお、退職する従業員の側から、消化しきれなかった有給日数分を金銭で買い取って欲しいと請求されることもありますが、就業規則等にそのような定めがない限り、会社として未消化の有給を買い取る義務はありません。退職日までに権利行使できなければ、有給休暇は当然消滅となります。
弁護士 市村陽平