新型コロナによって打撃を受けた業界では、今後、事業規模の縮小や業態転換がさらに進んでいくものと思われます。そんな中、コロナによる業務縮小に伴って整理解雇を行った会社に対する裁判(地位保全等仮処分)で、整理解雇を無効とする決定が示されたようなので、判断のポイントをまとめてみます。
当事者は、これまで観光バス事業を営んでいた会社と、その従業員であったバス運転手。コロナにより海外からの観光客が激減し、売上が最盛期の約10パーセント程度となり、従業員の社会保険料(会社負担分)の支払いも困難となったことから、高速バス事業に業務転換を図るため一部のバス運転手を解雇した事案。
裁判所は、人員削減の必要性は認めたものの、従業員に対して人員削減の規模や人選基準の説明がなかったこと、解雇対象者から意見徴収を行わなかったこと等の事情から「拙速といわざるを得ず、本件解雇の手続は相当性を欠く」と判示しました。また、解雇対象者の人選として、高速バスの運転手として働く意思確認をミーティングの場で挙手させた点について、「ミーティングの場で挙手しなかったことをもって直ちに高速バスの運転手として稼働する意思は一切ないものと即断し、解雇の対象とするのは人選の方法として合理的なものとは認め難い」と判断しています。
会社の対応としては、コロナによって今日明日の存続すら危ぶまれる事態に直面して、迅速な意思決定により整理解雇に踏み切ったと思われますが、解雇回避努力や人選の合理性、手続の相当性という整理解雇の判断要素について、裁判所からはすべて否定的に判断されてしまっています。この裁判を教訓とするならば、コロナという危機的事態においても、裁判所は平時と同様の解雇手続を履践しないといけないと考えているようなので、経営者としては迅速な意思決定もさることながら、慎重に手続を踏んでいくことを重視したほうがよいのかもしれません。
弁護士 市村陽平