ご相談事例

定年後再雇用者への労契法19条2号適用の有無について


定年後再雇用者の処遇の関係で、また一つ注目すべき高裁判決が紙面に掲載されました(広島高裁令和2年12月25日判決、原審:山口地方裁判所宇部支部令和2年4月3日判決)。ご承知のとおり、高年法改正によって、現在、企業は65歳までの雇用確保措置義務を負っていますが、多くの企業が採用している継続雇用制度では1年ごとの契約更新という形がとられています。その意味で外形上は「有期労働契約」として位置付けられることから、労契法19条が定年後再雇用者にも適用されるのか議論されてきました。

この点、原審の判決では、定年後再雇用者の契約更新の場合も有期労働契約であることは明らかであるとの理由で労契法19条2号の「準用」という形で認めたのに対し、高裁判決では今回の事件が「定年退職後の再雇用自体」の問題ではなく、定年退職後いったん暫定的に取り交わした継続雇用契約の「更新の有無及びその内容」が問題となっているのであるから、同条の「適用ないし準用」があることは明らかであると理由付けしており、この争点について正面からの議論を避けた印象を受けます。その上で、暫定的に取り交わした更新一年目の労働契約の労働条件と同一の労働条件で雇用契約が更新され継続するとの判断を示しました。

この高裁判決を読んだときに感じたのが、高年者の継続雇用の場合、賃金等の労働条件は大幅に減額されるのが一般的であり、このような状況での高年者の「有期労働契約の更新への期待」とはいったい何を意味するのか裁判所は説得的に論ずる必要があるのではないかということです。私個人としては、仮に労契法19条が高年者へ適用(準用)されるとしても、それはあくまで契約が更新されるという期待が保護されるだけであって、労働条件等の内容面まで含めて契約が更新されるとの期待は合理的理由があるとはいえないと考えています。

一般的に、高年者は年齢を重ねる毎に労働能力が低減していくと考えられますので、1年毎の更新のタイミングで労働条件を変えていくことは当然のことといえます。それにもかかわらず、今回の判決の理解を前提にすると、今後、企業に対して70歳までの雇用確保措置が法的義務として課されたときも、労働者側から最初の年の契約内容について「更新の期待」があったと言われてしまえば、定年後70歳まで最初の契約内容がずっと継続されることになってしまいます。この結論が明らかにおかしいと感じるのは私だけでしょうか。

 

弁護士 市村陽平


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