先頃、遺産分割手続の瑕疵を争っていた訴訟が和解により終結しました。遺産分割では、一度は話し合いにより合意が成立しても、その後の予期せぬ展開により紛争が蒸し返されることも珍しくありません。不動産など名義人と所有者がほぼ確実に一致している遺産だけなら問題ないのですが、貸金庫内の現金(場合によっては預貯金も)など名義人と出資者が必ずしも一致しない遺産については、その財貨が本当に被相続人の遺産なのか慎重に見極める必要があります。また、分割協議時点では見つかっていなかった遺産が後に判明するケースもよくありますので、その場合に備えて、協議書の中では現に判明している遺産だけでなく、将来発見された遺産の取得者や分割方法についても明記しておくとよいでしょう。
今回の事件は、いったん協議が成立した遺産分割を争う側であったため、なかなかハードルが高かったのですが、結果的に依頼人も満足する形で決着できました。それにしても、今年に入ってから約2か月の間に6件の裁判が和解によって終結しており、どの事件も当初想定していた理想の紛争解決に近い形で終わっています。裁判と言えば、判決で白黒しっかりつけるという印象をもたれることも多いですが、判決ではどちらかに不満が残り、紛争の抜本的解決にはならないこともありますので、長い目で見たときには、相手方にも少しの利を与えて双方当事者が互譲する和解がいい場合もあります。3月は年度末で裁判所も異動の季節です。12月と並んで和解が成立しやすくなる時期なので、この3月に現在抱えている事件がひとつでも多く解決に向かうように働きかけていきたいです。
弁護士 市村陽平