ご相談事例

身元保証代行業者への遺贈


先般、名古屋地方裁判所岡崎支部で言い渡された遺贈をめぐる判決が波紋を呼んでいます(令和3年1月28日判決)。これは、身寄りのない高齢者が施設入所の際に身元保証を引き受けてくれたNPO法人に対して葬儀費用等の必要経費を払った後、死後の全財産まで遺贈するという内容の遺言を書いていたことが事件の発端になります。遺言者が亡くなり、NPO法人が遺言の内容に従って金融機関に預金の払い戻しを請求したところ、金融機関がこれを拒否して裁判に発展したようです。

本来、遺言は、遺言能力さえ備わっていれば無効になるということは基本的にないのですが、判決では「契約は不必要で不明確」「預金全額を受け取るというのは明らかに対価性を欠き、暴利と言わざるを得ない」述べており、NPO法人側にとっては極めて厳しい内容となっています。私も高齢者の遺言を作成するとき、遺言者やその家族がお世話になった施設に遺贈をしたいという申し出を受けることが多く、親族以外の第三者に多額の遺産を遺贈したからといってそれだけで裁判所から「不必要」とか「暴利」と判断されることには違和感を覚えます。他方で、身元保証をしたというだけの理由でそれ以上関わりのなかった業者に遺贈するというのは、さすがに唐突なのではないかという気もします。NPO法人側は控訴したということなので、控訴審では、遺贈に至る経緯が争点となるのではないでしょうか。

今後も高齢者を中長期的に受け入れる施設や病院が、身元保証人を求める運用が見直される可能性は低いと予想されます。そうしたときに、高齢者が直接、身元引受け業者に依頼するのではなく、いったん成年後見人や保佐人を立てた上で契約手続を進めるという運用を定着させることが望ましいのではないかと思います。

 

弁護士 市村陽平


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