ご相談事例

生計の資本としての贈与について


亡くなった母親から不動産の生前贈与を受けていた事案で、こちらが特別受益性を強く争っていた事案が終結しました。民法では「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」の贈与を受けた場合には、特別受益として相続財産に加算されることになります。このうち、「婚姻」と「養子縁組」のための贈与は具体的でわかりやすいのですが、「生計の資本としての贈与」とは何を意味するのか抽象的でわかりにくい規定となっているため、裁判で争いとなることが多々あるのです。

過去の裁判例では、相続人が被相続人と共に事業に従事し相続財産の維持に協力した事案、相続人が一家の主たる働き手となっていたことの労に報いる目的で贈与した事案などで「生計の資本としての贈与」であることを否定したようですが、判決文の中でも「生計の資本」の規範が定立されているわけではなく、説得的な理由付けが示されているともいえません。どちらかといえば、相続人の苦労とか貢献度に応じて「生計の資本」か否かの結論が決められているようで、言葉の素直な意味内容と乖離がありすぎて何となくすっきりしないのです。

今回、私が取り扱った事件でも、被相続人の生前の意思や、贈与の目的、贈与を受けた相続人との関係性などあれこれ主張してみたのですが、裁判官の頭の中では、評価の高い不動産を生前贈与しているのであれば「生計の資本としての贈与」にあたるとの判断が確立されていて、これを覆すことはできませんでした。余談ですが、この事案であと数か月相続開始が遅ければ新法適用となっていた事案であったため結論が変わっていたのではないかという気がしています。

 

弁護士 市村陽平


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